「夜中に何度もトイレに起きてしまう」「急に強い尿意が来て我慢できない」。
こうした症状は“年のせい”だけではありません。原因を見極め、適切に対処すれば多くの方で改善が期待できます。ここでは泌尿器科専門医の立場から、分かりやすくご説明します。
【まずは用語を正しく理解】
- 夜間頻尿:就寝後に起きて排尿する回数が1回以上ある状態を指します(一般に2回以上で困りごとになりやすいとされます)。
- 尿意切迫感:突然「今すぐトイレに行かないと漏れそう」と感じる強い尿意。
- 過活動膀胱(OAB):尿意切迫感を中心とする症状があり、しばしば昼間の回数増加や夜間頻尿を伴います(感染など明らかな異常がないのに膀胱が“過敏”な状態)。
【原因は1つとは限りません】
夜間頻尿は大きく次の3群で説明できます(複数が重なることもよくあります)。
- 夜間多尿
夜間に作られる尿量が多いタイプ。目安として65歳以上では1日尿量の33%超、65歳未満では20%超が夜間に偏ると「夜間多尿」と評価します。- 背景:塩分過多、夕方以降の飲水、心不全·腎機能低下、下肢むくみ、睡眠時無呼吸、利尿薬の服用タイミングなど。
- 膀胱の貯める力が低下
膀胱が少量でいっぱいだと感じるタイプ。 - 背景:過活動膀胱、前立腺肥大症(男性)、膀胱炎・結石、放射線・手術後、便秘や骨盤底筋の弱り など。
- 睡眠の質の問題
浅い睡眠で少しの尿意でも目が覚めてしまうタイプ。 - 背景:不眠症、寝室環境の問題、睡眠時無呼吸、カフェイン·アルコール など。
尿意切迫感は、過活動膀胱が代表的原因です。男性では前立腺肥大症が関与して膀胱が過敏になることも多く、糖尿病や脳血管障害など神経の働きに影響する病気、ストレス·不安が症状を強めることもあります。
【今日からできるセルフケア】
1. 飲み方·食べ方の見直し
- 就寝3時間前から飲水は控えめに。のどの渇きが強い方は氷やうがいで調整を。
- カフェイン·アルコールは夕方以降を避ける(利尿作用と膀胱刺激を抑える)。
- 減塩(目標:1日6g未満が目安)。塩分を控えると口渇·飲水量·尿量が連鎖して減ります。
2. むくみ対策
- 昼寝をされる場合は、昼寝中もクッション等で下肢を心臓よりやや高く挙上してみましょう(目安15~20分)。日中のうちに下半身の水分を戻すことで、夜間の尿量の偏りを減らすことが期待できます。※心不全や起立性低血圧のある方は無理のない範囲で行い、気分不良があれば中止してください。
- 夕方~就寝前に足を15–20分挙上、または弾性ストッキングの活用で夜間の尿量偏りを軽減。
- 入浴で下肢の水分を日中に戻すのも有効です。
3. 骨盤底筋トレーニング(男女とも有効)
- 肛門を“キュッ”と締める意識で5秒締める→5秒休むを10回、1日3セット。
- 強い尿意が来たらその場で数回締めて深呼吸し、尿意の波が弱まってから落ち着いてトイレへ(「切迫感コントロール」)。
4. 膀胱訓練(トイレ間隔を少しずつ延ばす)
- はじめは5分我慢から。できたら**+5分**と段階的に。膀胱の“容量アップ”を狙います。
5. 睡眠環境の整備
- 室温·寝具·照明を調整。夜間トイレまでの安全な動線と足元灯も準備を。
6. 排尿日記(頻度·量·飲水·失禁)を3日分
- 自分のタイプ(夜間多尿か、貯留低下か等)が見えて、診察がスムーズになります。
【医療機関で行う評価と検査】
- 問診·質問票:OABSSやIPSSなどで症状を定量化。
- 尿検査:感染・血尿・糖などをチェック。
- エコー:腎・膀胱・前立腺、残尿量を評価。
- 尿流測定:勢いをみて出口の詰まりを推定。
- 必要に応じて血液検査(腎機能·電解質)やPSA、睡眠時無呼吸のスクリーニングを追加。
【症状·原因に合わせた治療】
- 前立腺肥大症:
α1遮断薬(通りを広げる)、5α還元酵素阻害薬(前立腺を縮小)。効果不十分なら**内視鏡手術(TURP/HoLEPなど)**という選択肢も。 - 過活動膀胱:
抗コリン薬·β3作動薬で膀胱の過敏さを抑えます。口渇や便秘など副作用は薬の調整で軽減可能。難治例ではボツリヌス毒素膀胱内注入や神経刺激療法など専門治療も。 - 夜間多尿:
生活調整(減塩·飲水タイミング·むくみ対策)+利尿薬の服用時刻調整(主治医と相談)。選択的に抗利尿ホルモン薬(デスモプレシン)を使うことがあり、低ナトリウム血症のリスクがあるため血中ナトリウムの定期チェックを行います。 - 睡眠障害·睡眠時無呼吸:
生活指導、必要に応じてCPAPなどの治療で夜間覚醒を減らします。 - 便秘·膀胱炎など合併症があれば先に治療すると膀胱症状が改善することもあります。
【原因と主な対策の早見表】

【受診の目安(当てはまれば相談を)】
- 夜間に2回以上起きる日が続き困っている。
- 日中8回以上の排尿、または切迫感で生活に支障。
- **切迫性尿失禁(間に合わず漏れる)**がある。
- 血尿·発熱·排尿時痛がある(感染や結石の可能性)。
- むくみ·心不全·腎機能低下·糖尿病などの病気があり、急に悪化した。
- 新しい薬(利尿薬、SGLT2阻害薬など)開始後に症状が変わった。
【まとめ】
夜間頻尿や尿意切迫感は、原因が分かれば必ず打てる手があります。
まずは生活調整と排尿日記から。改善が乏しい、または不安がある場合は泌尿器科での評価を受けてください。症状と原因に合わせたオーダーメイド治療で、睡眠と日常の快適さを取り戻しましょう。