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コラム

筋筋膜性骨盤痛症候群(MPPS)

【筋筋膜性骨盤痛症候群とは?原因不明の下腹部痛・腰痛の正体と効果的な治療法を専門医が解説】

下腹部や腰の痛み、会陰部(えいんぶ:肛門と性器の間)の不快感が長期間続いていませんか?座っているとお尻や太ももが痛い、立ち上がる時に骨盤周りに違和感があるなど、原因のはっきりしない痛みに悩まされている方も多いでしょう。

これらの症状の背景には「筋筋膜性骨盤痛症候群(MPPS:Myofascial Pelvic Pain Syndrome)」という病気が隠れているかもしれません。

この病気は、骨盤周りの筋肉や筋膜(きんまく:筋肉を包む膜)の異常により生じる慢性的な痛みの症候群です。男女を問わず発症し、特に20代から50代の働き盛りの方に多く見られます。

今回は泌尿器科専門医として、この理解しにくい病気について、皆さんにわかりやすく説明いたします。症状の特徴から最新の治療法まで、詳しくお伝えしていきます。

【筋筋膜性骨盤痛症候群の症状と特徴|なぜ痛みが起こるのか?】

筋筋膜性骨盤痛症候群とは何か

筋筋膜性骨盤痛症候群(MPPS)は、骨盤底筋群(こつばんていきんぐん:骨盤の底にある筋肉の集まり)や骨盤周辺の筋肉・筋膜に生じる機能異常により引き起こされる痛みの症候群です。

「筋筋膜性」とは、筋肉とそれを包む筋膜の両方に問題があることを意味します。これらの組織が緊張したり、炎症を起こしたりすることで、持続的な痛みが生じるのです。

この病気の最大の特徴は、画像検査(CTやMRI)では異常が見つからないことが多いという点です。そのため「原因不明の痛み」として扱われることも少なくありません。

主な症状と患者さんの体験

MPPSの症状は人によって大きく異なりますが、以下のような特徴があります。

痛みの症状

  • 下腹部の重苦しい痛みや圧迫感
  • 会陰部の鈍痛やひりひり感
  • 腰痛や仙骨部(せんこつぶ:腰の下の骨)の痛み
  • 太ももや鼠径部(そけいぶ:足の付け根)への放散痛
  • 恥骨上部の痛み

動作に関連した症状

  • 長時間座っていると痛みが増す
  • 立ち上がる時の骨盤周りの違和感
  • 階段の昇降時の痛み
  • 特定の姿勢で症状が悪化
  • 運動後の痛みの増強

その他の症状

  • 排尿時の不快感
  • 排便時の痛み
  • 性交時の痛み
  • 睡眠の質の低下
  • 慢性的な疲労感

これらの症状は、ストレスや疲労、天候の変化によって悪化することがよくあります。

筋肉の圧痛点(トリガーポイント)の重要性

MPPSの診断において最も重要なのが、筋肉内にある「圧痛点」または「トリガーポイント」の存在です。

トリガーポイントとは、筋肉内にできる小さなしこりのような部分で、押すと強い痛みを感じる場所です。このポイントを刺激すると、離れた場所にも痛みが広がる「関連痛」が起こることが特徴的です。

例えば、骨盤底筋群のトリガーポイントを押すと、下腹部や腰、太ももに痛みが響くことがあります。この現象は、MPPSの診断において重要な手がかりとなります。

他の病気との鑑別の重要性

MPPSは、慢性前立腺炎、間質性膀胱炎、過敏性腸症候群などと症状が似ているため、正確な診断が困難な場合があります。

特に泌尿器科的な症状がある場合は、まず感染症や腫瘍などの器質的疾患を除外することが重要です。その上で、筋肉や筋膜の問題を評価していく必要があります。

複数の医療機関を受診してもはっきりした診断がつかない場合は、MPPSの可能性を考慮することが大切です。

【MPPS発症の原因とメカニズム|なぜ筋肉に問題が起こるのか?】

現代社会に潜むリスク要因

MPPSの発症には、現代社会特有の生活習慣が大きく関与しています。

生活習慣の問題
長時間のデスクワークや座り仕事により、骨盤周りの筋肉が常に緊張状態となります。特に、前かがみの姿勢を長時間続けることで、骨盤底筋群に過度な負担がかかります。

また、運動不足により筋力が低下し、筋肉の柔軟性も失われていきます。すると、日常の動作でも筋肉に負担がかかりやすくなり、痛みが生じやすくなるのです。

精神的ストレスの影響
仕事や人間関係のストレスは、筋肉の緊張を高める大きな要因です。ストレスホルモンの分泌により、全身の筋肉が緊張状態となり、特に骨盤周りの深部筋肉に影響が現れやすくなります。

また、痛みそのものがストレスとなり、さらに筋肉の緊張を高めるという悪循環が生まれることもあります。

筋肉と筋膜の病態生理

MPPSでは、筋肉と筋膜に以下のような変化が起こります。

筋肉の変化
持続的な緊張により、筋肉内の血流が悪くなります。すると酸素や栄養素の供給が不足し、老廃物が蓄積されます。この状態が続くと、筋肉内に微小な炎症が起こり、痛みを引き起こす物質が放出されます。

さらに、筋肉の一部が硬く収縮した状態(筋スパズム)が持続し、トリガーポイントが形成されます。

筋膜の変化
筋膜は筋肉を包む薄い膜ですが、この膜にも緊張や癒着が生じることがあります。筋膜の異常は、筋肉の正常な動きを妨げ、痛みや機能障害を引き起こします。

近年の研究では、筋膜には多くの痛みセンサーが存在することがわかっており、筋膜の異常がMPPSの症状に大きく関与していると考えられています。

神経系の変化と痛みの慢性化

長期間の痛みにより、痛みを伝える神経系にも変化が生じます。

末梢神経の過敏化
筋肉や筋膜の異常により、局所の神経が過敏になります。通常なら痛みを感じないような軽い刺激でも、強い痛みとして感じるようになります。

中枢神経の感作
痛みの信号が繰り返し脳に送られることで、脊髄や脳の痛み処理システムに変化が起こります。これを「中枢性感作」といい、痛みがより強く、広範囲に感じられるようになります。

この状態になると、原因となった筋肉や筋膜の問題が改善しても、痛みが持続することがあります。

ホルモンバランスとの関係

女性の場合、月経周期やホルモンバランスの変化がMPPSの症状に影響することがあります。

エストロゲンなどの女性ホルモンは、筋肉や結合組織の柔軟性に影響を与えます。ホルモンレベルの変動により、筋肉の緊張度や痛みの感受性が変化することが知られています。

特に、更年期前後の女性では、ホルモンバランスの急激な変化により、MPPSの症状が悪化することがあります。

【効果的な治療法と日常生活での対策|症状改善への道筋】

包括的な治療アプローチ

MPPSの治療は、単一の方法では限界があります。筋肉、神経、心理的要因など、複数の側面から包括的にアプローチすることが重要です。

理学療法:治療の中心となる方法 専門の理学療法士による筋筋膜療法が、MPPSの最も効果的な治療法です。

具体的には、以下のような手技が行われます:

  • トリガーポイント療法:痛みの原因となる筋肉内のしこりを直接治療
  • 筋膜リリース:緊張した筋膜を緩める手技
  • ストレッチ療法:筋肉の柔軟性を回復させる運動
  • 骨盤底筋群の評価と治療

多くの患者さんで、数回の理学療法により症状の明らかな改善が認められます。

薬物療法:症状に応じた薬の選択

痛みや筋肉の緊張を和らげるため、以下のような薬物が使用されます:

  • 筋弛緩薬:筋肉の緊張を和らげる薬
  • 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs):痛みと炎症を抑える薬
  • 神経障害性疼痛治療薬:慢性化した痛みに効果的な薬
  • 抗うつ薬:痛みの伝達を抑制し、気分の改善も図る

薬物療法は症状の軽減には有効ですが、根本的な解決には理学療法との組み合わせが重要です。

日常生活での実践的対策

姿勢の改善と環境整備
デスクワークが多い方は、椅子の高さや机の位置を調整し、正しい姿勢を保てる環境を作りましょう。

1時間に一度は立ち上がり、軽いストレッチを行うことが重要です。特に、骨盤周りの筋肉を意識的に動かすようにしましょう。

座る際は、クッションを使って骨盤への負担を軽減することも効果的です。

効果的な運動療法
適度な運動は、筋肉の柔軟性を保ち、血流を改善するために不可欠です。

おすすめの運動:

  • ウォーキング:骨盤周りの筋肉を自然に動かす
  • 水泳・アクアビクス:水の浮力により関節への負担が少ない
  • ヨガ・ピラティス:深部筋肉の強化と柔軟性向上
  • 骨盤底筋群の体操:専門的な筋肉の訓練

ただし、痛みが強い時期は無理をせず、症状に応じて運動強度を調整することが大切です。

ストレス管理と生活習慣の見直し
慢性的なストレスは筋肉の緊張を高めるため、ストレス管理は治療の重要な要素です。

効果的なストレス管理法:

  • 深呼吸やリラクセーション法の実践
  • 十分な睡眠時間の確保
  • 趣味や楽しい活動への参加
  • カウンセリングや心理療法の活用

また、喫煙や過度の飲酒は血流を悪化させるため、控えることが推奨されます。

最新の治療選択肢

トリガーポイント注射
局所麻酔薬をトリガーポイントに直接注射する治療法です。即効性があり、頑固な痛みに対して効果的です。

低周波治療・電気刺激療法
筋肉の緊張を和らげ、血流を改善する効果があります。理学療法と組み合わせて使用されることが多い治療法です。

体外衝撃波療法
近年注目されている治療法で、衝撃波により組織の治癒を促進し、痛みを軽減します。従来の治療で効果が不十分な場合に検討されます。

治療の継続と予後

MPPSの治療は、多くの場合、数週間から数か月の期間を要します。症状の改善には個人差がありますが、適切な治療により多くの患者さんで症状の大幅な改善が期待できます。

重要なのは、症状が改善した後も、日常生活での注意点を継続することです。正しい姿勢の維持、定期的な運動、ストレス管理を続けることで、再発を防ぐことができます。

また、定期的に専門医や理学療法士のフォローアップを受けることで、症状の変化に応じた治療調整が可能になります。

【筋筋膜性骨盤痛症候群(MPPS)への新しいアプローチ:男性編】

チーム医療による革新的治療体制

MPPS(筋筋膜性骨盤痛症候群)は、画像検査や血液検査では異常が見つからないにもかかわらず、骨盤周囲の違和感や排尿・排便時の不快感、慢性的な骨盤痛が続く疾患群です。

男性では「会陰部(肛門と陰嚢の間)の痛み」「排尿時の違和感」「頻尿や残尿感」「勃起や射精に伴う痛み」など、多彩な症状が現れます。そのため前立腺炎と誤診されやすく、抗菌薬が効かないケースも多いのが特徴です。

この複雑な病態に対して、医師単独ではなく理学療法士や看護師と連携したチーム医療が確立されつつあり、より高い治療効果が期待されています。

専門理学療法士による高度な治療技術

1. 骨盤底筋のリラクゼーション
男性の骨盤底筋は尿道や前立腺の働きと密接に関わっており、過緊張状態になると排尿障害や会陰痛の原因になります。理学療法士が触診や外部からの手技で筋肉を緩め、症状を軽減します。

2. 筋膜リリース(MFR)
会陰部・内転筋・腰部の筋膜に癒着や緊張があると、痛みが慢性化します。筋膜リリースにより筋膜の滑走性を回復させ、トリガーポイントの痛みを改善します。

3. 神経筋リプログラミング
間違った筋肉の使い方を修正し、正しい排尿・排便時の筋肉の動きを再学習させます。これにより症状改善だけでなく再発予防も期待できます。

これらの技術を組み合わせることで、多くの患者さんで痛みスコア(NRS)や生活満足度(PGI-I)の改善が確認されています。

多角的アプローチによる個別化医療

MPPSは患者ごとに症状が異なるため、以下のような治療を症例に応じて組み合わせます。

  • 日常生活習慣の改善(長時間の座位回避、冷え対策、排尿習慣の調整)
  • セルフケア(呼吸法、ストレッチ、温熱療法)
  • 薬物療法(筋弛緩薬、鎮痛薬、抗不安薬、漢方薬)
  • 体外衝撃波治療(ESWT)
  • 高強度磁気刺激(TESLA磁気)
  • 筋膜内注射(ハイドロリリース)
  • ボツリヌス注射による筋緊張緩和

特に注目されるESWT(体外衝撃波治療)

  • 麻酔不要の外来治療
  • 骨盤底や会陰部の筋緊張をやさしくほぐす
  • 他の治療との併用で相乗効果
  • 週1回15~20分、4~6回の施術で多くの男性患者に有効性が確認されています。

看護師による専門的ケア

男性においては、経会陰的アプローチや自宅セルフケア指導を看護師が担うケースが増えています。

  • 継続的に安心して相談できるサポート体制
  • 排尿記録(排尿日誌)や症状スコアを共有しながらの改善計画
  • 心理的な不安や羞恥心に配慮したカウンセリング

これにより治療の継続率と満足度が大きく向上しています。

今後の展望と課題

  • 技術の標準化:理学療法・衝撃波治療・注射療法の手順を統一し、再現性を高めることが必要です。
  • 心理的ケア:男性は羞恥心から症状を訴えにくく、早期受診が遅れる傾向があります。十分な説明と信頼関係が治療効果を高めます。
  • エビデンスの蓄積:長期的な追跡調査により、最適な治療プロトコールを確立することが求められます。

【まとめ】

筋筋膜性骨盤痛症候群(MPPS)は、男性に多くみられる慢性的な骨盤周囲痛の代表疾患です。従来の抗菌薬治療では改善が乏しいこともありましたが、

  • 理学療法士による骨盤底筋リハビリ
  • ESWT(体外衝撃波)や磁気刺激療法の導入
  • 看護師による生活指導と心理的サポート

これらの多職種連携により、新しい治療の道が開けています。

「検査では異常なし」と言われても、会陰部の痛みや排尿違和感で悩んでいる男性は少なくありません。MPPSに対応できる医療チームに相談することで、改善への確かな一歩を踏み出すことができます。

原因の見えにくい骨盤痛で悩んでいる方も、正しい診断とチーム医療を受ければ、必ず症状改善の可能性が拓けます。

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