【まず知ってほしいこと】
「同年代より小さい気がする」と感じても、多くは成長や体型による見かけの差で、治療を要さないことが少なくありません。
一方で、まれにホルモンの働きや発達に関連した「真の陰茎矮小(マイクロペニス)」が隠れていることもあります。心配なときは専門医で評価しましょう。
【陰茎矮小の定義と“正しい測り方”】
- 医学的には、**年齢・身長に対する基準(−2.5SD未満)**を満たす場合を「陰茎矮小(いんけいわいしょう)」と呼びます。
- 新生児では、国際的に伸展陰茎長(SPL)1.9cm未満が目安です。
- 思春期前は個人差が大きく、家庭での自己測定は誤差が大きいため推奨しません。
SPL(伸展陰茎長)の測定法
専門医が、仰向けで恥骨に定規を軽く当て、陰茎を体軸方向へまっすぐ伸ばし、根元(恥骨)から亀頭先端まで背側で測定します。
※皮下脂肪が厚いと短く見えやすいため、恥骨にしっかり当てて測ることが重要です。
【「真性」と「見かけだけ小さい」の違い】
真性(本当に小さい)
- 胎児期~乳児期のホルモン分泌の不足や受容体の働き、染色体・遺伝学的背景などが関与。
- 新生児や乳児で疑われた場合は、早期の内分泌評価が必要です。
見かけだけ小さい(仮性)
- 埋没陰茎:恥骨上の皮下脂肪や皮膚の付き方で“埋もれて”小さく見える。
- 包皮が厚い/むけにくい:包皮に隠れて短く見える。
- 冷え・緊張:一時的に引き込まれて小さく見える(正常範囲)。
似て非なるものに停留精巣(精巣が陰嚢に降りない)があり、見た目の左右差や陰嚢の発達に影響します。気づいたら早めにご相談ください。
【よくある原因】
- 体質・発育の個人差(家族に“小さめ体型”が多い など)
- 肥満・皮下脂肪による見かけの短縮(埋没陰茎)
- 停留精巣や尿道下裂などの先天性の状態
- まれに、ホルモン分泌の異常(視床下部‐下垂体‐性腺軸)、受容体の問題、遺伝学的背景
- 慢性疾患や栄養不良 など
【受診の目安】
次のいずれかに当てはまるときは、小児泌尿器科/小児科にご相談ください。
- 明らかに同年代と比べて小さく見える、もしくは急な変化がある
- 新生児・乳児期でサイズが気になる/陰嚢の発達が乏しい
- 排尿トラブル(尿線が極端に弱い・分かれる・しぶる等)がある
- 陰嚢の左右差が大きい/精巣が触れにくい(停留精巣の疑い)
- 尿道下裂や陰茎の曲がりなど形態の異常が疑われる
- 身長体重の伸びが悪い、低血糖やけいれんなど内分泌異常を示唆する症状がある
【受診後の評価の流れ】
- 問診・身体診察(成長曲線・精巣発達・包皮の状態・陰茎計測)
- 必要に応じて
- ホルモン検査(LH/FSH、テストステロン等)、刺激試験
- 染色体検査や画像検査(超音波など)
- 排尿症状があれば尿検査・エコー
評価はお子さんの年齢と発達段階に合わせて進めます。
【対応・治療の考え方】
見かけ上小さい(埋没陰茎・包皮に埋もれる)
- まずは体重管理やスキンケアで改善を目指します。
- 包皮は無理にむかない(傷や癒着、痛みの原因)。
- 生活配慮でも日常生活に支障が強い場合、手術で皮膚の固定や余剰皮膚の調整を検討することがあります。
真の陰茎矮小が疑われる
- 乳児期~幼少期に専門医による内分泌評価を行い、原因に応じた治療を検討します。
- 思春期の進行に合わせて、適切なタイミングの治療やサポートを計画します。
- 停留精巣や尿道下裂を合併している場合
- 合併の有無で手術や治療の時期・順序が変わります。総合的にプランを立てます。
家庭での“体操・マッサージ・強い牽引”で大きくする根拠はありません。皮膚トラブルや痛みの原因になるため避けましょう。
【親御さんができること】
- 焦らず観察:入浴後などリラックス時に左右差や排尿の様子を確認。
- 適正体重の維持:皮下脂肪が厚いと短く見えます。食事と運動のバランスを。
- 声かけ:サイズをからかわれると自尊心が傷つきます。「個人差があるよ」「困ったら先生に相談しよう」と安心させましょう。
- むりに包皮をむかない:痛み・出血・癒着の原因になります。ケアは専門医の指導で。
【よくある質問】
Q. 将来の大きさは今から決まりますか?
A. いいえ。思春期のホルモン分泌で大きく変化します。幼少期の見た目だけで将来を判断しないでください。
Q. 家で定規で測ってよい?
A. おすすめしません。測り方で数値が大きく変わるため、評価は専門医に任せましょう。
Q. 温泉や学校でからかわれないか心配です。
A. 体型や温度で一時的に小さく見えることはよくあります。必要なら学校への配慮依頼や心理的サポートも行います。
【まとめ】
- 子どもの“サイズ不安”の多くは見かけの差で、治療不要です。
- ただし、真の陰茎矮小や合併症(停留精巣・尿道下裂など)が隠れることもあるため、気になるときは小児泌尿器科へ。
- 適切な評価とタイミングでの対応により、将来の機能と心の健康を守れます。