メタディスクリプション
5歳を過ぎても続く昼間の尿もれ・頻尿は、本人の努力不足ではなく、医学的な評価が必要なことがあります。便秘との関係、検査、排尿日誌や生活指導など、当院の小児泌尿器科診療の考え方をご説明します。
【昼間の尿もれは、本人の努力不足ではありません】
「小学生になったのに、まだパンツを濡らしてくる」
「休み時間のたびにトイレへ行くのに、間に合わないことがある」
そのようなご相談で受診される親御さんの多くが、「何度言っても直らない」「つい叱ってしまう」とお話しになります。
まず最初にお伝えしたいのは、5歳を過ぎても繰り返す昼間の尿もれ(昼間尿失禁)や、生活に支障をきたす頻尿は、性格やしつけの問題ではなく、医学的に評価する対象となるということです。
国際小児禁制学会(ICCS)でも、5歳以降の昼間尿失禁は、評価すべき小児の下部尿路症状として整理されています。
叱られ続けたお子さんは、トイレの失敗を隠すようになり、水分を控えたり、トイレを極端に我慢したりと、かえって症状を悪化させる行動をとってしまうことがあります。
「叱る」から「治療する」へ。
この切り替えが、改善への第一歩です。
【子どもの頻尿・尿もれでよくある原因】
昼間の尿もれや頻尿の背景には、いくつかの典型的なパターンがあります。
ひとつめは**「過活動膀胱」**です。
膀胱が十分に尿をためる前に強い尿意(尿意切迫感)が起こり、トイレに間に合わずにもれてしまうタイプです。もれる直前に、足を交差させたり、しゃがみ込んだりする**「がまんのポーズ」**がみられることがあります。
ふたつめは、**「排尿を後回しにする癖(排尿我慢)」**です。
遊びや授業に夢中になってトイレを先延ばしにし、限界まで尿をためてから、間に合わずにもれてしまうタイプです。学校のトイレに行きづらいなど、環境的な要因が隠れていることも少なくありません。
みっつめは、**「うまく尿を出せないタイプ(機能障害性排尿)」**です。
排尿するときには本来ゆるむべき骨盤底の筋肉に力が入ってしまい、尿の勢いが途切れたり、膀胱に尿が残ったりすることがあります。残尿は尿もれだけでなく、膀胱炎などの尿路感染症を繰り返す原因になることもあります。
このほか、尿の量やもれ方によっては、膀胱炎、糖尿病・尿崩症などによる多尿、まれに尿管の位置異常など、生まれつきの病気が隠れていることもあり、専門的な鑑別が必要です。
また、尿検査などに明らかな異常がなく、**日中だけ急に何度もトイレに行くようになる「一過性の昼間頻尿(いわゆる心因性頻尿)」**がみられることもあります。
緊張や環境の変化が関係することもあり、多くは時間とともに落ち着きますが、まずほかの病気がないことを確認しておくことが大切です。
【便秘と尿もれの関係】
意外に思われるかもしれませんが、便秘は、子どもの尿もれ・頻尿と非常に密接に関連する重要な要素です。
直腸に便がたまると、すぐ前にある膀胱が圧迫され、膀胱が過敏になったり、十分に尿をためられなくなったりします。
また、便を我慢する癖と尿を我慢する癖は、骨盤底の同じ筋肉の使い方の問題として連動しています。
このように排尿の症状と排便の症状が合併した状態は、**「膀胱腸機能障害(Bladder and Bowel Dysfunction:BBD)」**と呼ばれます。
ICCSでも、便秘がある場合には、その治療を排尿症状の治療に先立って、あるいは並行して行うことが推奨されています。
実際、便秘をきちんと治療することで、尿もれが目に見えて改善するお子さんも珍しくありません。
「毎日排便があるから便秘ではない」と思われている場合でも、
- 硬い便が出る
- 排便時に痛がる
- 排便を我慢する
- 少量の便が下着に付く
といった症状があれば、便秘の治療対象となることがあります。
当院の小児泌尿器科では、就学後の便秘・便もれのご相談も診療内容に含めており、排尿と排便をひとつながりの問題として診ています。
【学校生活で困ること】
昼間の尿もれ・頻尿の多くは、命に関わる病気ではありません。
しかし、お子さんの学校生活や自尊心には大きな影響を与えることがあります。
授業中にトイレに行きたいと言い出せない。
休み時間のたびにトイレへ走る。
尿のにおいを気にして友達と距離を置く。
宿泊学習や修学旅行が不安になる。
こうした困りごとは、本人が一番つらく感じています。
「そのうち治る」と経過をみているあいだにも、お子さんは毎日学校で緊張しているかもしれません。
就学後も症状が続いている場合には、様子見だけを続けるのではなく、一度ご相談いただければと思います。
また、治療を進めるうえでは、担任の先生に
「授業中でも必要なときにはトイレに行ってよい」
と伝えていただくだけでも、お子さんの安心感が大きく変わることがあります。
必要に応じて、学校への伝え方についても一緒に考えていきます。
【検査は痛いものばかりではありません】
「子どもに検査を受けさせるのはかわいそう」と、受診をためらわれる方もおられます。
しかし、当院で最初に行う検査は、痛みを伴わないものが中心です。
具体的には、
- 尿検査:膀胱炎などの感染、血尿、尿糖などを確認します
- 超音波検査:腎臓や膀胱の形、膀胱に残った尿(残尿)、直腸にたまった便などを確認します
- 尿流測定(ウロフロメトリー):トイレ型の検査機器に普段どおり排尿してもらい、尿の勢いや排尿パターンを調べます
などがあります。
いずれも、身体の中に器具を入れる検査ではありません。
これらの検査結果や症状の経過から必要と判断した場合には、さらに詳しい検査をご相談します。
【排尿日誌・生活指導・薬物療法】
治療の基本は、いきなり薬を使うことではありません。
まず行うのは、「ウロセラピー(urotherapy)」と呼ばれる生活指導と行動療法です。
その土台となるのが排尿日誌です。
数日間、
- 排尿した時刻
- 尿の量
- 尿もれの有無
- 水分を飲んだ量
- 排便の状態
などを記録していただきます。
これによって、膀胱にどのくらい尿をためられているのか、どの時間帯にもれやすいのかなどが客観的に分かり、治療方針を立てやすくなります。
ご家庭で記録することが難しい場合も、記録の方法からご説明します。
生活指導では、
- 尿意を待たず、2~3時間ごとを目安にトイレへ行く「定時排尿」
- あわてず、足の裏を床につけた正しい排尿姿勢
- 日中の適切な水分摂取
- 便秘の治療
などを、お子さんの生活や学校の時間割に合わせて組み立てます。
大切なのは、お子さん自身が「やらされている」と感じるのではなく、記録ができた日、決めた時間にトイレへ行けた日など、小さな成功を積み重ねていくことです。
そのうえで、過活動膀胱などの症状が残る場合には、膀胱の過敏さをやわらげるお薬の併用を検討することがあります。
お薬は生活指導と組み合わせて使用し、効果と副作用を確認しながら治療を進めます。
【夜尿症と昼間の尿もれは分けて考えます】
「おねしょ(夜尿症)」と「昼間の尿もれ」は、同じ尿もれでも、原因や治療の考え方が異なります。
夜だけ尿がもれる場合には、夜尿症として治療します。
一方、昼間の尿もれや頻尿などを伴っている場合には、まず昼間の下部尿路機能障害や便秘を評価し、治療することが重要です。
昼間の症状が改善すると、それに伴って夜尿も改善することがあります。
「おねしょもあるし、昼間ももれる」というお子さんでは、昼と夜の症状を分けて考え、順序立てて治療していく専門的な視点が役に立ちます。
夜尿症については、別のコラムでも詳しくご説明していますので、あわせてご覧ください。
【叱らず、比べず、治療につなげる】
当院の小児診療の基本方針は、
「怒らない・叱らない・比べない・ほめる」
です。
尿もれは、叱っても改善するものではありません。
むしろ、
「今日は決めた時間にトイレへ行けた」
「排尿日誌をつけられた」
「学校でトイレに行きたいと言えた」
といった小さな成功を、一緒に認めていくことが治療につながります。
札幌駅直結の当院では、米国および北海道立子ども総合医療・療育センターで小児泌尿器科診療に携わってきた院長が、お子さんと親御さんのお話をうかがいながら診療にあたっています。
「叱ってしまう毎日」から、「どうしたらよくなるかを一緒に考える毎日」へ。
昼間の尿もれや頻尿でお困りの場合は、どうぞお気軽にご相談ください。